わたしの好きな瀬戸夏子の歌 水沼朔太郎
再演よあなたにこの世は遠いから間違えて生まれた男の子に祝福を
/瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』
下句〈間違えて生まれた男の子に祝福を〉のメッセージ性が強いから〈あなた〉と〈男の子〉が=みたいに見えるかもしれないけれど、どこまでいってもこのふたつは重ならない、テクスト上のその事実に救われる。それは〈この世は遠いから〉という接続によるものが大きいと思うけれど、同時に〈再演よあなたに〉と〈間違えて生まれた男の子に祝福を〉とを別々のわたしへのメッセージとして同時に受け取ることもできる、という不思議なねじれがある。瀬戸夏子の歌は逆説的というわけではない。
かなわない頬っぺたのように夜の空 クリスマスと浮気は何度もしよう
/瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』