2022年2月28日月曜日

偏愛歌60首

あいたいというひまもなくあっているまきじゃくあっちとこっちをもって/おさやことり

同名誌『太朗?』(2015)

会ひたさは心の狭さ だとしてもあなたに傘を届けてみたい/神野優菜

機関誌『九大短歌』第九号(2019)

秋茄子を両手に乗せて光らせてどうして死ぬんだろう僕たちは/堂園昌彦

歌集『やがて秋茄子へと到る』(2013)

あめつちのかひなに抱かれしんしんとたれをかなしむ野のゆきうさぎ/永井陽子

歌集『なよたけ拾遺』(1978)

あれはたぶん壊れた針をふたつとも外した梟の掛け時計だ/谷川由里子

歌集『サワーマッシュ』(2021)

インナーワールド・オブ・ザ・フューチャー 背泳を小学校のプールで一人/五島愉

歌集『緑の祠』(2013)

黄金休暇中日 眠れば眠るほど手首しびれてわれも涙目/棚木恒寿

歌集『天の腕』(2006)

おしぼりの袋がひじに貼りついて5年分の浮かれっつらしている/阿波野巧也

歌集『ビギナーズラック』(2020)

おそろしき隣家寒夜に移り来てすぐ花鳥図(くわてうづ)のバス・タオル乾す/塚本邦雄

歌集『歌人』(1982)

お名前何とおっしゃいましたっけと言われ斉藤としては斉藤とする/斉藤斎藤

歌集『渡辺のわたし』新装版(2016)

お前といるとばかになる……男の子ありがと、わたしを抱いて浮上する/初谷むい

歌集『花は泡、そこにいたって会いたいよ』(2018)

火炎吐くごとくに僕は息をする仲裁という慣れぬ役目に/廣野翔一

同人誌『穀物』創刊号(2014)

雷を窓ガラスごと見てしまう四角く腕をかためた私/椛沢知世

同人誌『半券』vol.1(2019)

からだごと織られるような祈りして火は森をどこまで焼けたかな/安田直彦

個人誌『ザオリク』vol.3(2017)

彼氏の次も彼氏をつくった女の子 入れてもらったことのない部屋/乾遥香

同人誌『Sister On a Water』vol.3(2020)

昨日より可愛くなったはずなのにわたしと気付かれて驚いた/石井松葉

同人誌『かんざし』第二号(2016)

きよちやんと歩きたかつた天神を天六を手をそつとつないで/染野太朗

同人誌『外出』第二号(2019)

鍵盤のようだと思う 無花果のタルトに刺さっていくあなたの歯/道券はな

同人誌『too late 』vol.1(2019)

再演よあなたにこの世は遠いから間違えて生まれた男の子に祝福を/瀬戸夏子

歌集『かわいい海とかわいくない海 end.』(2016)

鎖骨より真珠をはづすさやうならおとうと婚のはつなつゆふべ/上村典子

歌集『開放弦』(2001)『上村典子歌集』(2011)

死螢を拾ひ「ひかり」と断ずれば「ほのほ」と応ふ君ふるへつつ/藪内亮輔

総合誌『短歌研究』2019年2月号

遮断機があがりきるまで動かないぼくは断然菜の花だから/大橋弘

歌集『からまり』(2003)

すこし瀬戸すこし夏子のラヴを差し引いても接吻は遺書であること/石井僚一

ネットプリント「ラヴレターは瀬戸夏子の彼方に」(2015)

砂浜を歩き互いの頭から届く光におじぎを交わす/頭上葛良

同名誌『太朗』(2015)

ソフトクリーム舐めてあかるむ喉をいま古い涙のようなもの落つ/小島なお

歌集『展開図』(2020)

それにしても大塚愛はどんな日を「泣き泣きの一日」と思ったのだろう/鈴木ちはね

ムック『ねむらない樹』vol.5(2020)

たまかぎる茜の雲に歩むときうつせみのままわが声は杖/山中智恵子

歌集『玉菨鎮石』(1999)

だるい散歩の途中であったギャルたちにとても似合っている秋だった/永井祐

歌集『日本の中でたのしく暮らす』(2012)

だれのものでもなくなったマイメロディのキーホルダーが小枝に揺れる/寺井奈緒美

歌集『アーのようなカー』(2019)

地下鉄の風にビニール袋鳴るなんにもおもわないってかんじ/今井心

歌集『目を閉じて砂浜に頭から刺さりたい』(2018)

ちゃん付けで呼んでみたきが妻の前で呼び捨てにする池田エライザ/田村元

歌集『昼の月』(2021)

常臥せる窓の桧の木にこの夜頃天道虫の匂ひ満ちをり/相良宏

『現代短歌大系』第十一巻(1973)

とうめいなみどりかざしてアスパラガスこの夏がもう始まっている/福島遥

歌集『空中で平泳ぎ』新装版(2013)

どの光とどの雷鳴が対だろう手をつなぐってすごいことでは/佐伯紺

同人誌『遠泳』創刊号(2019)

どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車/井上法子

歌集『永遠でないほうの火』(2016)

なすすべなく現在形でつけているはるまき巻いている夢日記/橋爪志保

歌集『地上絵』(2021)

庭の上(へ)のうす雪ふみて雉鳩のつがひ来あそぶこゑなくあそぶ/小中英之

歌集『翼鏡』(1981)『小中英之歌集』(2004)

眠気にはあらためて負け越していて湯船でノーモーションで来るかも/森口ぽるぽ

歌集『インロック』(2022)

ノースリーブの腕のひかりの苦しくて好きになつたらあかんと思ひき/大辻隆弘

歌集『景徳鎮』(2017)

博多駅の屋上に来て風のなかをひろく重なるふたつの視野が/山下翔

歌集『meal』(2021)

八月十五日 お家三軒分ぐらいの夕焼け雲 なんなんだ/北山あさひ

歌集『崖にて』(2020)

はやく明日にならないかなって、何もないけど。うー、目が おやすみ/樟鹿織

機関誌『京大短歌』22号(2016)

harass とは猟犬をけしかける声 その鹿がつかれはてて死ぬまで/川野芽生

歌集『Lilith』(2020)

春の原っぱのさようならへその緒を切られたみたいにくすぐったい/土岐友浩

『短歌ヴァーサス』vol.7(2005)

ひとひらが大きい雪だ何度でもはじめにもどる電光掲示板/斉藤志歩

ネットプリント「砕氷船」第二号(2020)

暇人に時代あり 花散らし 鼻血出し 裏声でプリーズだよ/平英之

同人誌『はならび』第5号(2014)

ひまわりを葬るために来た丘でひまわりは振りまわしても黄色/服部真里子

歌集『遠くの敵や硝子を』(2018)

㊵(ひょうしき)がくす玉のよう 言いかけたことは言おうよわたしたちなら/笠木拓

同人誌『遠泳』第二号(2020)

星きれい あなたは知らないだろうけどあれなら神々の自爆テロ/笹川諒

ネットプリント「トライアングル」(2018)

真夜中のバドミントンが 月が暗いせいではないね つづかないのは/宇都宮敦

歌集『ピクニック』(2018)

まわすたび軋むキューピー人形の首はつぶせばつぶれる軽さ/平井俊

総合誌『現代短歌』2018年10月号

水たまり回避している夏の朝 わたしのラッキーナンバーは0/原田彩加

ムック『ねむらない樹』vol.1(2018)

耳鳴りは早く治したい一月のローソンの棚においしい苺/仲田有里

歌集『マヨネーズ』(2017)

ラーメンがきたとき指はしていないネクタイをゆるめようとしたね/山階基

歌集『風にあたる』(2019)

リズム・アンド・ブルース・いいからくわえてみ・ツイスト・アンド・シャウト・いらない/平岡直子

総合誌『歌壇』2017年7月号

両腕はロゴスを超えている太さふかぶかと波を掻ききらめきぬ/大森静佳

総合誌『現代短歌』2018年10月号

リラックスしないなら死ね 自分たちが空からずっと見え続けてる/瀬口真司

ムック『ねむらない樹』vol.6(2021)

わが内臓(わた)のうらがはまでを照らさむと電球涯なく呑みくだす夢/辰巳泰子

歌集『紅い花』(1989)『辰巳泰子集』(2008)

われのところへ届くことなき子のサーブ待つというより立ち尽くすなり/花山周子

総合誌『短歌』2017年2月号

勇気なのだ 間違い電話に歯切れよく「五分で着きます!」きみはこたえた/我妻俊樹

同人誌(誌上歌集)『率』第10号(2016)